フィリピンの貧困問題を改善するためにフィリピン政府が進めている具体的な解決策について、国際ボランティア団体 グローリアセブが解説します。
2000年代から目覚ましい発展を遂げているフィリピンですが、急激な人口増に伴う雇用や教育の格差、台風や地震など度重なる自然災害などから生まれる深刻な貧困問題を抱えています。
この記事では、フィリピン政府や行政機関が発表しているデータを整理し、この大きな課題を乗り越えるために必要な9個の解決策を説明します。

フィリピンの貧困率
2023年現在のフィリピンの貧困率は15.5%です。
貧困率の算出は世界銀行が発表する計算方法とフィリピン政府の方法では異なっています。
世界銀行はフィリピンを含む中低所得国の貧困ラインを1日3.65ドルに定めています。
これは3.65ドル以下の収入では食料など毎日の暮らしに支障をきたすと世界銀行が定めた数字で2023年現在、フィリピンは国民の11.02%が貧困に該当します。
一方フィリピン政府は、世界銀行のような1日何ドルという一律の基準ではなく、「基本的な食料および非食料のニーズを満たすために必要な最小限の収入」を計算して貧困ラインを算出しています。
フィリピン統計局(PSA)が2024年7月に発表した公式統計では国民の15.5%が貧困層に分類されています。
参考:世界銀行
貧困問題の解決策

フィリピン政府が貧困問題を解決するために行っている「雇用」「教育」「経済」「災害対策」に関する9つの政策をご紹介します。
1.教育の質的向上と職業訓練の拡充
フィリピンの大学進学率は約5割と日本と変わらないのですが、若者が多いフィリピンでは大学を出たからと言って正規雇用は約束されません。
将来的に国も国民も貧困から抜け出すためには最低限の教育を受けることはもちろんですが市場の需要にあったスキルを身に付けることが大切です。
技術教育技能教育庁(TESDA)では大学に進学しない層に対して建設、観光、製造業などの実践的な職業訓練を提供し専門スキルの向上に努めています。
また公立の高校と大学では従来の科学技術や理数教育を統合した高度なカリキュラム「STEM教育(Science, Technology, Engineering, Mathematics)」を導入し、ITやエンジニアリング分野の教育を充実させ、将来、高賃金の職に就ける機会を増やしています。
2.最低賃金の見直しと労働環境の改善
フィリピンでは正規雇用者の最低賃金を1日約400ペソと定めています。
しかし実際は雇用する側の力が強く最低賃金が守られない場合があり、働いてもお金がたまらないワーキングプアを生み出しています。
またフィリピンにはendと呼ばれる短期雇用契約制度があります。
雇用側は5か月間程度の短期契約で労働者を雇い、契約期間が終了すれば良い人材だけ残し、他は契約の延長をしません。
この問題を解決するために労働者が生活に必要な最低限の収入を継続的に確保するための最低賃金の徹底と、短期契約の繰り返しを制限し、労働者の権利と雇用の安定を守る法整備を進めています。
参考:フィリピン大学
3.条件付き現金給付
フィリピン政府は子どもがいる貧困層の世帯に最長7年間条件付き現金給付を提供するPantawid Pamilyang Pilipino Program(4Ps)を実施しています。
これは、健康、栄養、教育を改善する国家的な貧困削減戦略および人的資本投資プログラムで、各世帯に月額750ペソの健康補助金、児童1人につき300ペソ~700ペソの教育補助金、および、月額600ペソの米補助金が支給される制度です。
また義務教育を卒業後も、経済的な自立を促すために就労支援を始め、無担保での融資、保険などのサービスを行っています。

4.マイクロファイナンスと個人事業支援
フィリピンの自営業者の割合は28.2%。日本の自営業者の割合が約10%ですのでとても高いことが分かります。
産業が少ないフィリピンではサリサリと呼ばれる小さな店舗を開業したり、農産物の卸、小物の販売など個人で商売をする人が多いです。
フィリピン政府は個人事業者に対して小口の融資や銀行に代わる決済サービスを提供し、小規模事業の立ち上げを支援しています。
5.農業の「ビジネス化」と流通革命
フィリピンは農業に就いている人口が多く、2023年現在、国民の24.4%、4人にひとりが農業分野の従事者です。
しかし、生産性が低く、また仲介業者に利益を吸い取られる構造のためほとんどの農家は貧しい生活を強いられています。
政府は最新の農業技術や機械を導入し、生産量を向上させるスマート農業を促進するとともに、農業から加工食品への転換を支援しています。
また、地方から都市への農産物輸送道路を整備し輸送コストの削減を図っています。
参照:FMR WATCH
6.外資規制の緩和による製造業の誘致
フィリピンの経済はコールセンターや語学学校、旅行業など、外国資本との提携によって成り立っています。
例えばセブは語学留学で有名ですが語学学校の半数以上が韓国や日本の資本です。
そのためフィリピン政府は外国資本が参入しやすいよう法整備を進め、海外企業を積極的に誘致しています。
また世界でも高いと言われる電気代の引き下げや、煩雑な行政手続きのデジタル化を進めています。
グローリアセブはフィリピンの団体ですので設立から毎年の手続きまでフィリピンの行政機関と行っています。
創業時は手続きが煩雑で大変な思いをしましたが、現在は、税金の決済や事業報告などはネットで完結するようになりました。
7.家族計画とリプロダクティブ・ヘルス
フィリピンの人口は2024年時点で約1億1,273万人。
5年間でおよそ1%増加していて2026年には約1億1,700万人を超えると推定されています。
これはフィリピンが避妊や中絶を認めていないキリスト教の国だということも原因の一つです。
貧困世帯ほど子どもが多いです。
しかし子どもが多ければ世帯のリソースを圧迫し、十分な教育を受けたり食事をとれない子どもも出てきます。
フィリピン政府は避妊具へのアクセス向上や性教育を通じて、望まない妊娠を減らし、各家庭が持続可能な家族構成を持てるよう支援しています。
8.インフラの整備
フィリピンに来ると未整備で歩行も困難な道路が多いことに気づくと思います。
老朽化した空港や港湾設備などインフラの整備(Build Better More)に力を入れています。
インフラが整備されれば経済が円滑に回ります。またそこには雇用も発生しますので貧困対策にもなります。
参照:CPBRD
9.災害対策と気候変動への適応
フィリピンは台風による災害が多い国です。
とくに10月〜12月の台風シーズンには大型台風が上陸し、家屋の崩壊、停電や断水、食料の輸送が滞るなど甚大な被害が発生します。
2025年11月に上陸した台風では170万人の子どもが影響を受けました。
参照:Unicef 超大型台風に見舞われたフィリピン 170万人超の子どもに影響
フィリピン政府は、災害に強い家屋の建設、農業保険の普及、早期警戒システムの導入により、災害による経済的、人的被害を最小限に抑える努力をしています。
まとめ 持続可能な貧困対策

今回ご紹介したフィリピン政府による貧困問題の解決策は、決して計画段階のものではなく、現在進行形で確実に実行されています。
しかし、フィリピンが抱える貧困は、長い歴史的背景や島国特有の地理的要因、そして特定の産業に依存した経済構造が複雑に絡み合っています。
そのため、これらの施策が実を結び、すべての国民が恩恵を実感できるようになるまでには、まだ相応の時間が必要です。
また、その根底には政府の財政基盤という大きな課題も横たわっています。限られた予算の中で、いかに効率よく、かつ持続可能な形で支援を届けていくかが、今後のフィリピン経済の命運を握っています。
私たちは一過性の支援だけでなく、フィリピンがこの構造的な課題をどう乗り越えていくのか、その歩みを長期的な視点で見守り続ける必要があります。